代表弁護士 吉岡 毅
<復活掲載コラム>
つい先日の水曜日(※2012年6月20日)、「著作権法の一部を改正する法律案」が参議院本会議で可決、成立したと報じられています。 (※以下、条文を含めて当時の報道内容に基づいています。)
これは、インターネット上で著作権を侵害して違法に配信されている音楽や映像を、個人が違法配信と知りながら私的にダウンロードする行為に、重い刑事罰を科す法律です。
また、市販のDVDソフトやデジタル放送などの技術的保護手段(コピーガードやアクセスコントロール技術)を回避して私的に複製を作るいわゆるリッピングによる不正コピーについても、今までより広い範囲で違法とされることになります。
違法ダウンロードに対する罰則は
「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はその併科(=両方)」
となったようです。
新法全体は来年1月1日から施行ですが、罰則については、これに先立って本年(2012年)10月1日から施行とされています。
著作権保護の目的は正当ですが、純粋に私的な目的でダウンロードする行為一般に刑事罰を科す今回の法律は、極めて多くの問題をはらんでいます。
例えば、違法配信と知りながらダウンロードしたこと(故意)を、誰がどのように判断するのでしょうか?
自分でアップして自分でダウンロードする行為と違法ダウンロード行為を、外形的にどのように区別できるでしょうか?
サーバーの管理者やリンクを張った人たちが1回のダウンロード毎にすべて共犯となれば、天文学的な数の罪が生まれるのではないでしょうか?
1回の違法ダウンロードにも適用される今回の罰則規定は、刑の重さのバランスが取れているでしょうか?
現状で、年間にして軽く数十億件以上にのぼる著作権侵害ダウンロード行為の中から、誰がどのように処罰対象の事件を特定するのでしょうか?
警察が、恣意的に特定の人を狙い撃ちしていつでも捜査・逮捕できることにならないでしょうか?
これほど問題のある法律が、ほとんど中身の議論をされることもなく成立してしまったことは、残念というほかありません。
施行前に、もう一度考え直すべきです。
そもそも刑罰とは、国家が市民一人一人の生命・身体・自由・財産に対して直接牙を向ける、言わば権力支配のための「最終兵器」です。
適用範囲も曖昧なまま国家・警察が市民の日常生活の領域に容易に介入して身体拘束できるような法律や制度を作ってしまうと、一般市民の権利は、かえって大きな危険にさらされます。
誰でもつい、「自分は大丈夫、自分は関係ない」と思ってしまいがちです。
しかし、市民の権利に対する危険を座視する態度は、いつの日か、自分の大切な権利がまさに奪われようとするそのとき、冷たい世間の風となって、自分自身に返ってくることになります。
自由と人権の歴史においては、「誰かの権利を守ることが自分の権利を守ることそのものだ」ということを、忘れたくないものです。
(初出:2012/06)
コメントをお書きください