代表弁護士 吉岡 毅
<復活掲載コラム>
前回( 鹿児島強姦えん罪事件 ~DNA鑑定に翻弄される刑事裁判(1) )の続きです。
控訴審で「被告人の精液ではない」という明確なDNA再鑑定の結果が出た後も、検察官は、まだあきらめませんでした。
DNA再鑑定の結果が出た直後に、最後の最後に残っていた微量の精液資料を使って勝手に再々鑑定を行い、大切な無罪証拠を使い切ってしまったのです。
しかも、検察官は、再々鑑定で少しでも有利な結果が出たとき“だけ”証拠として提出するつもりであり、不利な結果なら最後まで隠しておこうと考えていたため、再々鑑定したことを、裁判所にも弁護側にも一切秘密にしていました。
再々鑑定の結果は、科学的に意味のない内容でした。
……が、なぜか自分に有利になると勘違いした検察官が喜々として証拠請求したため、検察官によって秘密のうちに大切な証拠が破壊されてしまったことが判明したのです。
控訴審判決は、検察官の行為に対しても痛烈な批判をしています。
捜査で集めた裁判の証拠は、事件の真相解明のために多額の税金を使って保管されているもので、有罪の根拠にも無罪の根拠にもなります。
決して検察官や捜査機関の私物ではありません。
けれども、当の検察官は、自分の行為が正義に反すると批判されるなどとは、これっぽっちも思っていませんでした。
普段から当たり前のようにしていることなので、何も問題ないと考えて証拠請求したのです。
検察官の行為は、真実を隠してでも被告人を有罪にしようとする行為でした。
私は現在(※2016年)、日弁連の法務研究財団の研究員として、DNA鑑定を中心とする科学鑑定の様々な問題点について、専門的な研究を続けています。(※同研究会は2019年9月まで続き、現在、最終報告書を作成中です。)
確かに、DNA鑑定は科学的に正確に行われれば、有罪であれ無罪であれ、決定的な証拠になり得ます。
しかし、決して万能ではありません。
何より、鑑定をするのは常に“人間”です。機械は正確でも、人間のやることには間違いや不正がつきまといます。
「DNA」は科学的に嘘をつきませんが、人間が作る「DNA鑑定書」には、嘘も間違いも、いくらでもあり得るのです。
鑑定の手順や記録方法、鑑定の資料を使い切らずに再鑑定を保障することなどを厳格に法律で定めなければ、DNA鑑定書は、市民をえん罪に陥れる悪魔の証拠になりかねません。
誤ったDNA鑑定書は、科学を盲信する刑事裁判が作り出した、この世界に実在する『デス・ノート』そのものです。
自分や自分の大切な人たちの名前が『デス・ノート』に書かれてしまう前に、捜査機関が集めた証拠は残らず全部弁護側に開示し、捜査機関によって勝手気ままな偽造や廃棄などがなされないような立法を、早急に行うべきです。
本件の被告人であった男性は、控訴審の逆転無罪判決までの間、2年4か月も身体拘束されていました。
(初出:2016/1)
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