袴田事件 ―えん罪の責任は誰にあるか?

代表弁護士 吉岡 毅

<復活掲載コラム>

 

袴田(はかまだ)事件で再審開始決定が出ました(※2014年3月27日、静岡地裁)。

 

 

もちろん、再審開始の決定自体は本当に喜ばしいことなのですが、専門的に刑事弁護に関わり続けている弁護士としては、あれほどたくさんの無罪証拠が積み上げられた袴田事件ですら「やっと開始(の可能性あり)」なのか、という憤りや無力感が強いのも確かです。

 

袴田事件の詳細については、多くの報道や書籍があります。

短時間でも構いませんので、是非、ご自身で調べてみてください。

 

日本という国家が死刑制度を存置している以上、このような悲劇は今後も、今も、何度でも何度でも何度でも、繰り返されます。

 

袴田事件のような悲劇を生み出しているのは、死刑制度と刑事司法の現状を知ろうとせず、変えようともしない私たち日本国民です。

 

私たち全員に責任があるのです。

知らないこと、知ろうとしないことも、既に責任です。

 

 

 

今この瞬間にも、間違って有罪判決を受けたえん罪被害者、獄中から無罪を主張し続けている人たちが、袴田さん以外にたくさんいます。

その中には確定死刑囚もいます。

それどころか、えん罪で死刑や無期懲役等で長期服役している人たちの中には、支援者の不在や絶望感や高齢化や拘禁反応による精神破壊などによって、真実は無実でありながら、再審請求することさえできない状態の人も数多くいます。

 

 

 

袴田事件の再審開始決定が出る少し前に、ある中学校で全校生徒500人くらいの皆さんに、

「刑事裁判から考える人権 ~なぜ犯罪者を弁護しなければならないのか?~」

と題する講演をしました。

 

後日、全員の感想文を読ませていただいたのですが、その中に、

「死刑判決を受けて30年以上も獄中で死の恐怖におびえていたのに、再審で無罪が証明された人が日本に何人もいるという事実が、とてもショックでした。同じような冤罪の人が、まだほかにもいるというのは本当なのでしょうか。いまだにどこか信じられない気持ちがあります。」

と書いてくれた生徒さんがいました。

 

あまりに日常生活から乖離した現実は、想像することすらも困難です。

それは彼が中学生だからではなく、大人でも同じですよね。

 

彼は、その感想を書いたすぐ後で、袴田事件の報道に触れることになりました。

どんなことを感じてくれたでしょうか。

 

 

 

検察は、無罪判決が確定するまで争い続けるのでしょう。

仮に、再審を戦う検事本人が袴田さんの無罪を確信していても、それは変わらないでしょう。

哀しいことです。

 

袴田さんの心身のご回復と、一日も早い再審無罪判決の確定をお祈りいたします。

 

 

※この後、2018年6月11日、東京高裁は静岡地裁の再審開始決定を取り消し、袴田さん側の再審請求を棄却しました。担当裁判官、検察官の愚かな振る舞いに対して、強く抗議します。

 

 

(初出:2014/4)