代表弁護士 吉岡 毅
<復活掲載コラム>
今(※2014年8月)、キムタクが検察官役で主演するドラマ「HERO」の続編が放送中です。
法律ドラマとしては、例によって突っ込みどころ満載で間違いだらけなわけですが、ともかく話として面白いし、検察官という職業がとても魅力的に描かれています。
私だって、あれを見れば
「カッコいいよな~」
と、素直に思います。
ドラマの中で、キムタクの演じる久利生公平検事は、すぐに部屋を飛び出して自分の足で捜査をはじめてしまいます。
徹底した現場主義の検察官として描かれています。
しかし、現実の検察官が現場に出て自分で捜査をするなどということは、ほとんどありません。
皆無に近いと言っていいでしょう。
現場捜査は、あくまでも警察の仕事です。
検察官に捜査指揮の権限はありますが、現場で指揮する時間と能力、そして(ちょっと酷な言い方ですが)度胸がないのです。
検察官が、山のように抱えた他の事件を放りだして、(あるいは文字通りの意味で寝る間を惜しんで)、ひとつひとつの事件で現場捜査をしてまで真実を追究しても、素人捜査では大した成果は得られないでしょう。
仮に成果が得られたとしても、その分、他の事件で時間不足になって犯人を起訴できなかったり、無実の人をろくに調べもできず、長期間、身体拘束したりしてしまうかもしれません。
そうなれば、当然、クビや左遷も覚悟しなければならなくなります。
だから、できるわけがないのです。
同じことは、実は裁判官にも言えます。
裁判官は、多くの場合に職権で(自らの決断で)、事実や証拠を調査する法律上の権限を持っています。
裁判の手続の中でも、必要に応じて自ら現場に赴くこともできるはずですが、積極的にそうした調査をする裁判官は、ほとんどいません。
もちろん、検察官にしろ裁判官にしろ、やたらと忙しいので仕方がない面もあります。
けれども、裁判官や検察官が忙しいのは、司法制度の利用者である国民の責任ではありません。
国の怠慢です。
なぜなら、検察官や裁判官が忙しすぎるからという理由で司法試験合格者を増やしたのに、国は、検察官も裁判官も、ちっとも増やさなかったからです。
結局、増えたのは弁護士だけでした。
つまり、国家機関の側にいる裁判官や検察官が、国の責任である自らの忙しさを理由に徹底した捜査や事実調べをしないのは、国民に対する言い訳と責任放棄にすぎません。
その点、自由業である弁護士は、自分の持ち時間を比較的自由にデザインできます。
もちろん、現場主義は時間泥棒の面があり、休日と引き替えになることも多いです。
したがって、どんな事件でも常に実行するわけにはいきませんし、そもそも弁護士なら誰でもそう心がけているわけではないでしょう。
それぞれの弁護士のスタイルがあります。
私は、受任した事件毎に、可能な限り現場に行くことを心がけています。
現場に行くと、書面上では分からなかった色々なことが分かります。
特に、争いのある刑事事件、交通事故事件、不動産関係事件などでは、この現場主義こそが、後で必ず大きな力になっています。
久利生検事のような現場主義のやり方がHEROの条件なら、現実には弁護士こそHERO候補でもいいはずです。
けれども、残念ながら肝心の(?)見かけが全然キムタクじゃないので、最後はやっぱり
(あっちの方が)「カッコいいよな~」
という、ため息になってしまうのでした。
(初出:2014/8)
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